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帝都怪奇譚⑤

 犬神と譽と暁は、とある一つの答えに辿り着いた。
 夏目美鈴の毎日の愉しみは、放課後の密会だった。佼しい彼女は男子生徒から人気があったが、美鈴はそれには目もくれず、授業が終わるとすぐに校庭に向かった。そして間諜のように辺りを見渡すと、校庭の木の傍に隠してある木箱を開けた。木箱の中には何も入っていない。
 すると美鈴は、今は遣われていない古い納屋へ走った。そこには、もう一人の少女、南田ゆず子が、手持ち無沙汰に待っていた。
 ゆず子は美鈴を見るなり接吻をした。長い接吻であった。
「今日ね、3組の葛木君から呼び出しがあったの。」
 美鈴は云った。「でも断ったわ。貴女との時間のほうが大切ですもの。」
「嬉しいわ。」
 二人は秘密の恋仲だった。学校では知らぬふりをしていたが、毎日ここで密会をして、互いのことを話すのが何よりの悦びであった。
 しかし、卒業後、美鈴は先輩の虎沢との婚約がすぐに決まった。美鈴とゆず子は泣きながら互いの悲恋を憂えた。そして半年後にも、ゆず子の結婚が決まった。相手は同級生の葛木だった。
 結婚後も二人は密会を重ねた。逢う度に新鮮に恋慕しあった。
 しかし、その恋は果敢なく終わった。ゆず子は双子を生み、そのまま死んだ。
「そして、」
 犬神は言い淀んだ。
「こんな悪魔的なことは……そう信じたくはないのですが……梢さんとつぐみさんは双子なのでしょう。」
「そうよ。」
 暁はそれを知っていた。
「だからつぐみは、入水自殺しようとしたのよ。」
「一寸待って。どうやって美鈴さんはつぐみさんを貰ったの?赤ん坊を貰うなんて考えられない。」
「これは推論だけれど……葛木教授は……本当は美鈴さんを愛していたんじゃないかしら。虎沢氏は何度も赤子を返すように美鈴にいったが、美鈴は半狂乱になり、またつぐみが秀英を父として認識しだしたため、それを諦めた。つぐみの兄に云ったところ、虎沢美鈴の部屋には山ほどの恋文と写真があったそうよ。だから、愛人の子と嘘をついて、つぐみと美鈴を近づけなかった。」
 二十年前の恋が、再び娘に宿る。一体そんなことが起こるのだろうか?譽はそのとき、犬神の読んでいた本を思いだした。
 ドグラ・マグラ……遺伝による恋。それは何とも奇妙で、奇譚である。

 翌日、つぐみは学校に登校してきていた。
「おはよう、譽さん。」
「おはようございます。学校、お休みされていたのは大丈夫でしたの?」
「アア、ふふ、平気よ。石動さんから聞いたけれど、うちの両親のことも聞いたんですってね。一時は思い詰めて、へその緒を持って入水しようかと思ったんだけれど、なんだか急にさっぱりした気持ちになってね。梢とはもう関係しないことにしたわ。」
「え?」
「女の子って、一時、同性に魅力を感じてしまうことがあるでしょう?わたしと梢がそうだったみたい。でもそれって本当の恋じゃなくて、一種の憧れみたいなものよね。それにわたしたちは双子だから、余計に惹かれ合ったみたい。」
 譽は犬神の言葉を思いだしていた。『時が解決してくれる………』

 放課後、譽が部室に行くと、窓辺に石動 暁が座っている。やはり面と向かって見ると、凄艶ともいうべき美しさである。
「不本意だけれど、あなたに感謝するわ。これで、この事件の輪廻は終わった。」
「わたしは何も……」
「でも、これであなたたちは輪廻に組み込まれた。わたしが再三忠告したのにも関わらずね。」
「……これからも輪廻は続くの?」
「さあ。それはわからないわ。事件が起こる度、わたしたちは死に、また生き返って、解決するまでずっと事件を繰り返し解決し続けなければならない。だから……」
 石動 暁の髪に桜が舞い落ちた。
「わたしも帝都倶楽部に入るわ。」
 ドグラ・マグラ。譽は、あの本のことが何度も反芻されてしかたなかった。